11月5日。金曜の昼下がり。
男は駅のホームで待っていた。 通過する特急を。 * * *長い間自問した。
生きる意味。理由を。 そして辿り着いた。 猛スピードで通過する特急に飛び込む。それが自分に残された、最後の仕事なんだと。「まもなく3番ホームを、特急が通過します」
アナウンスが聞こえ、静かに立ち上がる。
顔を上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。 男は自虐的な笑みを浮かべ、ゆっくりホームへと歩を進めた。 その時だった。「ちょっとあんた!」
突然腕をつかまれ、男はバランスを崩し転びそうになった。
誰だ、こんなタイミングで声をかけてくる馬鹿は。 やっと定まった決心が揺らぐだろうが。 そう思い、男は振り返り憎しみのこもった視線を向けた。「あんた、次にしなさいよ」
腕をつかみ、自分をまっすぐ見つめる邪魔者。
それは年の頃20代の、若い女だった。「次ってなんだ? 意味が分からないぞ」
「だから、飛び込むのは次にしてって言ってるの」
「はああああっ? ますます訳が分からん。大体お前、誰なんだよ」
「誰だっていいでしょ。とにかく私が飛び込むんだから、あんたは次の電車にしなさいよ」
「いきなり人の腕をつかんでおいて、何好き勝手なことを言ってるんだよ。俺はこの列車に飛び込むと決めて、ここでずっと待ってたんだ。後から来たやつにとやかく言われる筋合いはないぞ」
「この電車じゃなきゃ駄目だって理由でもあるの?」
「ねえよそんなの。ある訳ないだろ」
「だったら譲りなさいよ」
「ならお前にはあるのかよ、この列車じゃなきゃいけない理由が」
「そんなものないわよ、当たり前でしょ。大体飛び込むなんて勇気がいるんだから、ベンチに座ってずっと決心がつくのを待ってたのよ。それでやっと決心がついて、最後にお手洗いを済ませて戻ってみれば、あんたが先に飛び込もうとしてた。割り込みよ割り込み。いいから私に譲りなさい」
「割り込みだろうが何だろうが、先に動いたのは俺だ。大体お前、この列車に決めたのは今だろ? 別にこだわりがある訳じゃないだろ? だったら俺の後にしろ」
「こだわりがあろうがなかろうが、とにかく私は今飛び込むって決めたの。男なら黙って譲りなさいよ。レディファーストでしょ」
「今から死ぬのに男も女もあるか。いいから離せよ」
「列車が緊急停止します。緊急停止します」
「え……」
「なっ……」アナウンスに二人が声を漏らす。
視線を移すと、徐々に速度を落としていく特急が見えた。 二人のやり取りを見ていた誰かが、緊急停止ボタンを押したようだった。「マジ……か……」
「あんなスピードじゃ死ねないじゃない……」
「そこの人! 何してるんですか!」
周囲がざわめく中、駅員がものすごい剣幕で近付いてきた。
「ヤバっ……」
そうつぶやいた女が、男の腕をつかんだまま出口に走っていく。
「お、おい! 何で俺まで」
「いいから! とにかく逃げるわよ!」
「あ、こらっ! 待ちなさい君たち!」
駅員が声を上げる中、男は女に引っ張られるように改札口に走っていった。
なんてこった。
俺、死に損ねたのか? こんな訳の分からん女に邪魔されて。 と言うかおい! いい加減手を離せよ!そう思いながら。
改札を出た二人は、そのまま全速力で走った。 息が続かなくなり振り返る。 駅員の姿はなく、何とか逃げ切れたようだった。 男は安堵の息を吐き、膝に手を当て息を整えた。「……お前なあ!」 男が憮然とした表情で女を怒鳴る。しかし女の方は、まだ肩で息をしていた。「全く……」「ちょ、ちょっと待って……言いたいことはいっぱいあるけど、とりあえずタイムで……」 そう言って咳き込む女に、男は呆れ気味に大きなため息をついた。「落ち着いたか?」「駄目、無理……とにかくちょっと、休みたい……」「休みたいってお前……はあっ、分かったよ。そこの喫茶店にでも入るか?」「ええ、そうする……お願い、ちょっと肩貸して……」 もう一度大きく息を吐くと、男は女の手を取り喫茶店へと入っていった。 * * *「全力ダッシュなんて、高校以来だよ」 アイスティーを一口飲み、ようやく女がほっとした表情を見せた。「俺だってそうだよ。でもお前、せいぜい25、6歳だよな。その歳でその体力のなさはどうなんだ」「おおっ、当たってる当たってる。私、25歳だよ」「いや、そこじゃないから」 呆れ気味にそうつぶやき、コーヒーを口にする。「で? 落ち着いたところで聞きたいんだけど、なんで俺の邪魔したんだよ」「邪魔したのはそっちでしょ。あんたがいなければ、今頃私はあの世に逝けてたんだからね」「お前なあ……それはこっちのセリフだよ」「ところで。さっきから気になってたんだけど、初対面の女相手にお前を連呼する男ってどうなの?」「お前だって俺のこと、あんた呼ばわりしてるじゃねえか。大体今から死のうとしてるやつ相手に、敬意もクソもねえだろ」「あんた、絶対モテないでしょ」「ほっとけ」「ふふっ」 そう言って女はもう一口アイスティーを飲み、一息吐くと男に言った。「私は海、星川海〈ほしかわ・うみ〉よ。苗字より名前で呼ばれる方が好き」「なんで唐突に自己紹介が始まるんだよ」「それぐらいいいじゃない。袖振り合うも他生の縁って言うでしょ? それにこんな馬鹿げた出会い、そうそうあるものでもないし。まあカウントダウンの人生、最後の出会いってことでさ」「何なんだよお前」「う・み。海よ」「……分かったよ、海」「よろしい」 そう言って笑顔を向ける海に、「こいつ、本当に死のうとしてたやつなのか
「それで? 俺はいつまでお前に付き合えばいいんだ?」「海」「はい?」「う・み。折角自己紹介したんだから、ちゃんと名前で呼んでよね」 アイスティーを飲み干し、海がにっこりと笑った。「分かったよ。それでその……海。俺はいつまでここにいればいいんだ」「別に。好きにしていいよ」「そうかよ」 大地はため息を吐くとレシートを取った。「おごってくれるの?」「じゃあ払うか?」「いいえ。こういう時は男を立てるって決めてるから」「理解ある女を演じてるんじゃねえよ」「あ、でもその前にひとつ、聞いていい?」「まだ何かあるのかよ」「大地はどうして死のうと思ったの?」 世間話をするような口ぶりで海が聞く。「どうだっていいだろ。くだらない話だ」「そのくだらない話、聞いてみたいんだけどな。あ、すいませーん」 そう言ってウエイトレスに手を上げ、海がサンドイッチとアイスティーのお代わりを頼んだ。「大地は何にする?」「あのなぁ……この状況でよく食えるな」「だってお腹が空いてたんだもん。今日はずっと緊張してて、朝から何も食べてなかったし」「……俺もサンドイッチ、お願いします。あとホットと」 注文を済ませると、大地は居心地悪そうに座り直し、またため息をついた。「さっきから気になってたんだけど、大地、ため息多くない?」「余計なお世話だ、ため息ぐらい好きに吐かせろ。と言うか、誰のせいだと思ってるんだよ」「言いたいことは分かるけど、でもそれ、やめた方がいいよ。幸せが逃げてくし」「だから死のうとしてるんだよ」「違いない、あはははっ」 屈託のない海の笑顔に、大地が再びため息をつく。「ほらまたー。こっちまで気が滅入るから控えてよね。あ、サンドイッチサンドイッチ。いただきまーす」 塩を
「……はい?」「だから、大地の家に泊めてって言ってるの」「……」 こいつ今、何を言った? カップを置き、海を見る。 冗談を言ってる顔には見えなかった。「いやいやいやいや、おかしいだろ。自分の家に帰れよ」「私の家、解約してるから」「……」「逃げられない状況にしないと覚悟も出来ない、そう思ったから」「いやいや、それならホテルにでも泊まれよ。金はあるだろ」「そうね。お金はそこそこ持ってるわ」「ならそうしろ。何で出会ったばかりの男の家に泊まるんだよ。その発想おかしいから」「おかしくなんか……ないって言ったら?」「いやいやいやいや、おかしい、おかしいから。あと、その小動物が餌をねだるような顔で俺を見るな。お前ずるいぞ」「だって……寂しいんだもん」「もん、じゃねえよ。寂しいってんならぬいぐるみでも買って抱いとけ。見ず知らずの男の家に泊まるだなんて、何考えてんだよお前。男なら誰でもいいのかよ」「そうだよ」 海が真顔で答えた。躊躇なく。 その言葉に大地の顔が強張った。「誰でもいい、そばにいて欲しいの。一人でいるのは……もう嫌だから。辛いから」 濡れた瞳を見せないよう、海がうつむく。その姿を見て、大地はようやく海の本当を見れたような気がした。 でも。「……大切なパートナーを失ったんだ。辛いし寂しいだろう」 レシートを手に立ち上がる。「でも、それとこれとは話が別だ。俺は海のパートナーじゃないし、保護者でも友達でもない。それに今日会ったばかりの女を泊めるほど、肝の据わった男でもない。悪いがその要求には応えられない」 大地がそう言うと海は涙を拭い、小さくうなずいた。「そうだよね……我儘言ってごめんなさい。今の言葉、忘れて」「ああ」 * * * 支払いを済ませ外に出ると、海は大地に頭を下げた。「ごちそうさまでした。それからその……飛び込むの、邪魔しちゃってごめんなさい」 海の態度に面食らった大地だったが、それを悟らせないよう努めて静かに答えた。「いや、その……それはお互い様だ。見方を変えれば、俺も海の邪魔をした訳だし。だからまあ、ごめんな、海」「うん……」「これからどうするんだ? この辺は分かるのか? ここまで付き合ったんだ、泊まる場所、一緒に探しても」「ありがとう。大地はほんと、優しいね」「いや、これぐらい
2階建てのハイツの前で、タクシーが止まった。「降りるぞ」「うん……」 車内で二人は、外の景色を見つめ無言だった。 ルームミラーで二人を見ながら、運転手は「喧嘩中かな」そう思った。 タクシーから降りた大地は、階段で2階に上がり部屋の鍵を開けた。「入れよ」 大地の声に小さくうなずき、中に入る。部屋は10畳のワンルームだった。 最初に目についたのは、部屋の大半を占めているダブルのベッド。あとは衣服のケース、ラックとテレビ。整頓された小綺麗な部屋だった。「適当に座ってろ」 フローリングにクッションとテーブルを置き、大地はケトルの電源を入れた。「コーヒーと紅茶、どっちが好きだ?」「あ、うん……じゃあ紅茶で」「分かった。ティーバッグしかないけど我慢してくれ」 そう言って海にカップを渡し、ベッドに腰を下ろした。「……あったかい」「ちょうど茶葉を切らしててな、そんなんで悪い。てか、寒いのか? 暖房入れるか?」「ううん、そういう意味じゃなくてね。大地の気持ちがあったかくて、少しほっとしてるの」「……そうか」 照れくさそうにそうつぶやき、額を掻く。「それでどうだ? 少しは落ち着いたのか?」「うん……ありがとう」 そう言ったまま、海は口をつぐんでうつむいた。 室内に重い空気が広がる。大地は立ち上がり、風呂場に向かった。「……大地?」「今お湯をはるから、用意が出来たら入れ。今日はまあ……色々あった訳だし、お前も疲れただろ」「お風呂なら、先に大地が」「いいから先に入れ。あ、でもあれだぞ? 俺に気を使って湯船に入らない、なんてのはなしだからな。ちゃんと肩までつかって、しっかり体を暖めるんだ」 そう言って再びベッドに腰を下ろし、ゆっくりと背伸びした。「……色々あったって言うなら、大地もでしょ」「ん? ああそうだな。何しろ特急に飛び込もうとした時に腕をつかまれて、ここは私に譲れって見知らぬ女に詰め寄られて」「そうじゃなくて……それもなんだけど、そうじゃなくて……頬、大丈夫なの?」「ああこれな。殴られるのは慣れてるからな、大丈夫だ。心配すんな」「心配……するわよ! 何よあんた、さっきから大丈夫大丈夫ってばっか言って! グーで殴られて、その後引っぱたかれて……大丈夫な訳がないじゃない!」「まあ、慣れてるって言っても最近ご無沙
枕元の時計を見ると、朝の8時だった。 もう二度と、迎えることがないと思っていた朝。 ため息を吐き、頭を掻いた。「あいつは……」 隣で寝ていた海がいない。 もう出ていったのか? そう思い起き上がった大地の背後から、海の声がした。「おはよう」「……」 振り返ると、コーヒーカップを持った海が自分を覗き込んでいた。 笑顔で。「……おはよう。もう起きてたのか」 海からカップを受け取り、一口飲む。「……うまいな。コーヒー淹れるの、得意なのか?」「裕司〈ゆうじ〉が好きだったからね。結構練習した」「……そうか」「うん、そう」「よく眠れたか?」「うん。大地のおかげ」「何もしてないと思うけど」「一緒に寝てくれたじゃない」「間違ってはないんだけど……人が聞いたら誤解されそうだな」「困る?」「いや……どうでもいいよ」「裕司がいなくなって2か月。ずっと一人で過ごしてきたの。本当、寒くて寂しくて辛かった」「そうなのか? 俺はてっきり、昨日のように毎晩男を漁ってたんだと」「見境のない女みたいに言わないで。あんな風に声をかけたの、昨日が初めてだったんだから」「じゃあ、これまでずっと我慢してたのか」「そうだよ。死んで裕司の元に行くんだから、それまでは操を守るって決めてたの」「じゃあなんで、昨日はその誓いを破ったんだよ」「あれはその……仕方ないじゃない。死ぬ決意が揺らいじゃったんだから。これから決心がつくまで、また一人で寝なくちゃいけないんだって思ったら耐えられなくて」「まあどっちにしろ、死んでまでして会いたい男への操なんだ。守れてよかったな」「大地のおかげだけどね」「そうだな、だから感謝しろ。そして二度と、ああいうことはしないでくれ」「なんで大地、そんなに気遣ってくれるの?」「嫌なんだよ、そうやって自虐的に抱かれる女が。それって自傷行為みたいなもんじゃないか」「ふふっ」「なんでそこで笑う」「ごめんなさい。でも、ふふっ……大地、面白いなって思って」「芸人を目指してるつもりはないんだが」「そういう意味じゃなくて。どうせ死ぬ私のことなんか、放っておけばいいのに」「ただの他人なら、こんなこと思わないよ」「他人でしょ? 私たちお互い、名前と年齢しか知らないんだし」「それと、お互い死にたがってる馬鹿ってこととな」「違
食事が済むと、大地は「ごちそうさん」そう言って片付け始めた。「いいよ、大地は座ってて。私がするから」「いや、海は飯を作ってくれたんだ。座ってていいよ」「でも」「ちょっとはくつろげよ。そんなに気を使うな」「……」 素っ気ない物言いだが、どこか温かい。そう感じ、海は照れくさそうにうなずいた。 * * *「それで? いつ死ぬつもりだ?」「……」 この男、本当にデリカシーがない。 さっき優しいと感じた気持ちを返せ。そう思った。「どうだろう……分かんない……」「分からないって、自分のことだろ? 裕司〈ゆうじ〉に会いたいんじゃないのか」「勿論会いたいよ。でも……あの場所に立つまでにだって、ものすごい勇気がいったんだから。あんな勇気、簡単に出来ないよ」「ちなみにその勇気とやらは、どうやって育てるんだ?」「分かんないよ……死のうとしたのなんて、初めてなんだから」「お前にとって、人生はそんなに嫌なものじゃなかった訳だ」「そういう大地はどうなのよ。本当は大地こそ、度胸なくなったんじゃないの?」 意地悪そうな笑みを浮かべ、海が問い返す。しかしすぐに、その問い自体が間違いだと後悔した。「俺は今すぐ死ねるぞ」 真顔でそう言った大地の目には、輝きが全くなかった。 人生に何の希望も見出してない、絶望の瞳だった。「大地あんた……もう目が死んでるわよ」「そうなのか? 自分では分からないけど、そう見えるのか」「自覚なし……なんだ……」 大きなため息をつき、海が呆れた眼差しを大地に向けた。「ため息をつくと、幸せが逃げるんじゃなかったのか?」「いちいち癇に障ることを言うのね、大地って」「悪い悪い、馬鹿にしてる訳じゃないんだ。気にしないでくれ」「全く……じゃあ何? 大地はこれから死ぬの?」
大地の姉を前にして、海は無駄に緊張していた。 これっておかしくない? 別に私、大地と付き合ってる訳でもないんだから。 昨日出会ったばかりの他人、そのお姉さんってだけのこと。 緊張なんてしなくていい、普通にしろ、私。 そう自分に言い聞かせるが、興味津々な姉の視線に変な汗が止まらなかった。「ほら、コーヒー」 大地が姉にカップを渡す。そして海にも渡すと、そのまま姉の隣に座った。 おいおい大地! なんでそっちに座るんだよ! 二人して私の前に鎮座して。これじゃほんとに、私の品評会じゃないの! 海が心の中でそう叫んだ。 落ち着きなくコーヒーを飲み、姉に作り笑顔を向ける。「……」 そんな海を姉が凝視する。 最初は戸惑っているようだった。しかし今は、弟にふさわしい女かどうか見定めているように見えた。 空気が重い。大地、なんか喋りなさいよ、そう思った。 そして同時に。海は姉の容姿が気になっていた。 大地を抱きしめている時。姉が小柄な女性だということは分かった。頭ふたつ分、大地より小さい。 普通に見れば可愛い女性だ。しかし海は、その体型にも違和感を感じていた。 痩せている、と言えば聞こえがいい。だがそんな言葉で表現出来ないほど、姉は華奢な体型をしていた。病的と言っていいぐらいだ。 そしてもうひとつ。 彼女の右目は眼帯で覆われていた。「気になる?」 視線に気付かれた、しまったと思った。しかしもう遅かった。 海が神妙な面持ちで頭を下げる。「す、すいません、その……じろじろ見ちゃって」「あはははっ、素直でよろしい。まあでも気になるよね、こういうのって」 そう言って姉が眼帯に触れた。そして次の瞬間、肩を震わせてうつむいた。「え……え? え?」 突然のことに海が動揺する。「うずく……うずくんだよ、この目が……」「だ、大丈夫なんですか」「
「それで大地。今日のこと、忘れてないよね」 青空〈そら〉の言葉に、大地が一瞬固まった。 カレンダーの赤丸を見て、「そうだった……」そうつぶやいた。「やっぱりか。迎えにきてよかったよ」「悪い。色々あってすっかり忘れてた」「今日は結構な人数だからね、人手はいくらあっても足りないんだよ」「何時からだっけ」「14時から。だから慌てなくていいよ」 大地と青空〈そら〉が当たり前のように話を進める。自分には関係ないことだ、そう思った海が、カップを洗おうと立ち上がった。 その時青空〈そら〉が、不自然に声を上げた。「そうだ! 人手ならここにもいたんだった! ねえ海ちゃん、暇だったらなんだけど、手伝ってくれないかな」「手伝いですか?」「うん。さっきも言った通り、今日はちょっと忙しくなりそうなんだ」「お世話になってますし、私なんかでも手伝えるのでしたら」「よーし! 人員一名ゲット!」「おいおい青空姉〈そらねえ〉、強引に進めるなよ」「いいじゃんいいじゃん。これもお互いを知るいい機会でしょ? あ、そうだ大地。煙草きらしてるんだ。買ってきてくれない?」「本数、守ってるよな」「大丈夫だって。ちゃんと守ってるよ」「分かった。じゃあちょっと買ってくる。海は大丈夫か?」 大地がそう聞くと、海は笑顔でうなずいた。「子供じゃないんだから。大丈夫だよ」「ちょっとちょっと。私と二人にするのが危険みたいじゃない」「みたいじゃなくて、危険だからだよ。いいか海、変なこと聞かれたら無理に答えなくていいからな。すぐ帰ってくるから耐えるんだぞ」「いいからさっさと買ってこいって。このままだとお姉ちゃん、ニコチン切れで倒れちゃう」「分かった分かった。じゃあ行ってくるな」 * * *「さてさて……ほんと、厄介事に愛されてるよね、あいつ」 青空〈
自分の中で、何かが変わろうとしている。 その事実に戸惑い、海は首を振った。「とにかく……私はまだ死なない。矛盾だらけだって分かってる。でも私は、この偶然の出会いを大切にしたい。例えそれが、人生最後に見てる夢だとしても」「……そうか」「だから大地、聞かせてくれる?」「ああ、構わない。じゃあ風呂に入ってから話すか」「うん」 海の中で、様々な葛藤がうごめいているのが分かる。しかしそれは、決して悪いことではないんだと大地は思った。 こうやって人と出会い、人の人生に触れて。 絶望が希望に変わっていくのも悪くない。 お前ならまだやり直せる。 その一助になると言うなら、もうしばらく付き合ってやるよ。そう思った。 * * *「青空姉〈そらねえ〉の高校卒業と同時に、俺たちは施設を出た」「その頃の大地って、まだ中学生よね」「ああ、中二だった。だから働くことも出来ない。青空姉〈そらねえ〉はそんな俺を引き取って、面倒をみてくれた。 と言っても青空姉〈そらねえ〉、あの見てくれだ。正規で雇ってくれるところはなかった。だから色んなバイトを掛け持ちして、生きる為の金を生み出してくれた。そんな青空姉〈そらねえ〉の力になりたくて、俺は青空姉〈そらねえ〉名義でよく内職をやってた。あと家事と」「……」「青空姉〈そらねえ〉の作った料理は、正に殺人兵器だった。あれなら食材をそのまま食べた方がマシだった。とにかくなんだ、命の危険を感じた俺は、必死になって料理を覚えた」「なんか……ふふっ、想像したら笑っちゃうね」「笑いごとじゃねえよ。ああ、俺はもうすぐ死ぬんだな。でもまあ、青空姉〈そらねえ〉に殺されるなら悪くないか、そこまで覚悟を決めたんだからな」「……どんな料理だったのか、見てみたい気はするけど」
「青空姉〈そらねえ〉が結婚……浩正〈ひろまさ〉さん、あんな女相手によく決心したな」 夕飯時。そうつぶやいた大地に、海が間髪入れず突っ込んだ。「ちょっと大地、実の姉にその言い方はないんじゃない?」「え? ああすまん、声に出てたか」「思いっきりね。じゃなくて、出さなきゃいいって問題でもないでしょ」「ははっ、確かにそうだ」「でもよかったじゃない。仲良し姉弟としては、お姉さんの幸せは何よりでしょ」「確かにそうなんだが……でも青空姉〈そらねえ〉、ほんと家事が酷いからな。浩正さんには同情しかないよ」「そんなに?」「ああ、そんなにだ。まず料理が壊滅的だ。卵も割れない」「……マジで?」「マジだ」「でもほら、野菜を切るぐらいなら」「青空姉〈そらねえ〉が包丁握れると思うか?」「あ、そうだったね……ごめん」「謝らなくていいよ。特殊な青空姉〈そらねえ〉に問題があるんだから」「じゃあ、大地が料理得意なのって」「ああ、青空姉〈そらねえ〉と暮らすようになってからだ。でないと二人共餓死してしまうからな、ある意味命がけで覚えたよ」「その辺の話、聞いてみたいって言ったら怒る?」「別に。隠してる訳でもないしな」「じゃあ聞かせてほしい。あと出来れば、浩正さんとの出会いとかも」「そんなの聞いてどうするんだよ。好奇心か?」「それもあるんだけど……あのね、前に大地から話を聞いて。そして青空〈そら〉さんと話して思ったの。本当に私は恵まれてたんだなって」「いいことじゃないか。わざわざ悪い環境に身を置く必要もないだろ」「そうなんだけど、ね……大地たちと出会ったことで、私の中で何かが変わろうとしてるの。それが知りたいって言うか」
青空〈そら〉の結婚宣言に、大地が固まった。「おーい、生きてるかー」 そう言って肩を叩かれ、我に帰る。「……」 青空姉〈そらねえ〉、今なんて言った? 結婚? なんで急に? と言うか、なんで今? そんな思いが脳内を巡り、混乱した。「いやいやいやいや、待て待て待て待て。なんでいきなり、そういう話になってるんだよ」「あははははははっ、大地テンパリすぎ」「笑ってんじゃねーよ。ちゃんと説明しろ。大体浩正〈ひろまさ〉さんの了承はとれてるのかよ」「勿論です。僕はずっと待ってましたからね、嬉しいですよ」 浩正が微笑む。「プロポーズしたのも、随分昔のことですし」「5年くらい前だっけ?」「はははっ、もうそんなになりますか」「と言うか青空姉〈そらねえ〉、一体何があったんだよ。訳分かんねえぞ」「あんただって、さっさと結婚しろって言ってたじゃない」「そうなんだけど……いやいや、俺が聞きたいのはそうじゃなくて」「お姉ちゃん……お嫁にいっちゃ、駄目?」「猫撫で声出してんじゃねーよ。締め落とすぞ」「分かった! 大地、お姉ちゃん取られて寂しいんだ!」「んな訳ねーだろ。歳考えろ」「あははははははっ、可愛いなー、私の弟はー」 青空〈そら〉に抱きしめられ、赤面した大地が慌てて離れる。「とにかくその……本当なんだな」「祝ってくれる?」「勿論だ。まあ、青空姉〈そらねえ〉に嫁が務まるか不安だけどな」「それは大丈夫。浩正くんの家事スキル、無敵だから」「いやいやいやいや、青空姉〈そらねえ〉がしろよ」 そう言って苦笑し、照れくさそうに浩正に頭を下げる。「浩正さん。こんな姉ですけど、どうかよろしくお願いします」「こちらこそ。今日まで青空〈そら〉さんを守ってくれて、ありがとうございまし
「じゃあ、あいつはまだ死ぬ気なんだね」「……はい」 締めの雑炊を食べながら、青空〈そら〉がため息をつく。「海ちゃんを追い出したら、また男を漁りに夜の街に向かう」「漁りにって……色情狂みたいに言わないでくださいよ」「色情狂なら救いがあるけどね。少なくとも快楽が目的なんだから、自分にとってもメリットがある。でも海ちゃんのそれは、ある種の自傷行為でしょ」「……」 大地と同じこと言うんだな、そう思った。「だから海ちゃんを泊めさせたのは理解出来る。あいつがしそうなことだ」 箸を置き、手を合わせる。「ごちそうさまでした。最高でした」 そう言って微笑んだ。「それで海ちゃん、いつまであいつのところにいる予定?」「それは……」「裕司〈ゆうじ〉さんのところに行くって気持ちは、まだ生きてるんだよね」「勿論です。私は裕司のこと、片時も忘れてませんから」「近いうちに行動を起こす、そういうことかな」 そう言われ、言葉に詰まった。 どうしてだろう。ついこの前までは、即答出来たのに。「私は……そんなに度胸のある人間じゃありません。あの日電車に飛び込もうとしたのだって、覚悟に覚悟を重ねて無理矢理動いたんです。あんな覚悟、そうそう出来るものじゃありません。だから……その覚悟が出来るまで、泊まらせてほしいって言ったんです」「大地はなんて?」「構わない、それまで面倒みてやるって。私が死んだのを見届けてから、自分も死ぬって」「それなのに海ちゃん、覚悟を育てるどころか、とまりぎで働くことになって。大地も当てが外れたんじゃない? と言うか、海ちゃんのその心変わり、どういうことなの?」「……大地の過去を聞いて、死にたい理由を聞いて……私、腹が立ったんです」「腹が立った、ね……でもさ、死にたい理由なんて、人それぞれでいいんじゃない?」「そうなんですけど……あの時の大地を見てたら、怒りが抑えられ
海は全てを話した。 両親を亡くしたこと。裕司〈ゆうじ〉との出会い。 そして裕司を失って、全てに絶望したことを。 時折声が震え、涙がこぼれ落ちた。 青空〈そら〉は黙って海の話を聞いていた。 4本目の煙草を消し終わった頃に、海の話はひと段落ついた。「そっか……」 そうつぶやき、ビールを飲み干す。 結構なペースだ。この小さな体のどこに入っていくんだろう、そう思った。「今私のこと、ちっこいって思ったろ」 この人は本当、なんですぐに分かっちゃうんだろう。海が引きつった笑顔で首を振った。「ちっこい方がいいことだってあるんだよ」「どんな時ですか?」「うっ……海ちゃん、結構辛辣だね」「そんなことないです。ただの好奇心です」「勿論それは……って、あんまりないな」「……ないんですね」「でもほら、浩正〈ひろまさ〉、浩正くん! この体のおかげで、私はあいつをゲット出来た!」 そう言って胸を張り、ドヤ顔をした。「あいつロリコンだからね。未成熟なこの容姿にメロメロなんだよ」「そうなんですか? この前大地と話してるのを聞いたんですけど、巨乳で有名な女優をべた褒めしてましたよ。綺麗な人ですねって」「なっ……海ちゃん、その話詳しく」「あ、それは……あははっ、またの機会に」「絶対だよ」 そう言って5本目の煙草に火をつけた。 海は深呼吸した。 この先の話は、大地のことでもある。 果たして話していいのだろうかと、少し躊躇した。 そんな海に気付いたのか、青空〈そら〉は白い息を吐いて笑った。「庇う必要はないよ。まああいつのことだ、大体のことは察しがついてる」 やっぱりこの人、心が読めるんじゃない? そう思った。「裕司の49日が終わって、私がするべきことは全部終わったんだと思いました。裕司のご両親は優しい方で、こんな私に
「初めて海ちゃんを見た時、すぐに分かったよ。ああ、この子は今、絶望の中で生きてるんだなって」 運ばれてきたビールに口をつけ、青空〈そら〉が静かに言った。「でも……確かにそうなんですけど、青空〈そら〉さんたちに比べたらこんなこと、全然大したことじゃないって言うか」「それは誰にも決められることじゃないよ。自分にとって大したことじゃなくても、その人にとっては人生の一大事だってことはいっぱいある。例えばそうだね、学生さん。テストの点が悪くて絶望してる。それが理由で死ぬ人だっている。海ちゃんはどう思う?」「それは……また次に頑張ればいいと思います。それに成績ぐらいで死ぬなんて、大袈裟過ぎると思います」「でもそれはね、私たちにとって過去の話だからなんだ。何年も経ってる今だからこそ、言えることなんだ。一度失敗したぐらいで死ぬだなんて、そんな暇があるならもっと勉強しろよって思っちゃう。勉強以外にも大切なことはあるよ、もっと世界は広いんだよって思っちゃう」「……」「でもその人からすれば、それが全てなんだ。それ以外何も見えなくて、世界から見捨てられたぐらいの絶望なんだ。 人によって悩みは様々。そしてその大きさも違う。自分の物差しだけで判断して、他人の苦しみを一蹴するのは馬鹿のすることだ」「言いたいことは分かりますけど……」「だからね、海ちゃんが私たちに同情する必要はないし、自分の悩みがちっぽけだなんて卑下することもないんだ。海ちゃんが抱えてる問題は、海ちゃんにとっては世界から消えたくなるぐらいの絶望なんだ。それが例え、虫歯が痛いって理由だとしても」「ふふっ、なんでそこで虫歯なんですか」「だって痛いじゃない虫歯。悪化した時に歯医者が休みだったら、絶望以外の何物でもないよ? 生き地獄だよ?」「そうですけど、ふふっ……もっと別の例えがありそうじゃないですか」「あはははっ、確かにね。でもそういうことなんだよ。生きていればいっぱい悩む。困難なこともあるし、絶望だってそこら中に転がってる。だからね、自分がちっぽけだなんて思う必要はないんだよ。
二人が向かった先は、近くの居酒屋だった。 店に入ると青空〈そら〉は店員に声をかけた。店員はうなずき、奥の個室へと二人を案内した。「ここ、よく来るんですか」「うん、これでも常連。と言うか、他の店だと入れてもらえないことが多いから。飲む時はここって決めてるの」「入れてもらえないって、青空〈そら〉さん、ブラックリストにでも載ってるんですか?」「んな訳ないじゃん、なんでそうなるのよ」 そう笑顔で突っ込む。「見た目の問題だよ。40が目前に迫ってるのに、私は未成年にしか見えない」 ああなるほどと、海は妙に納得してしまった。「はいそこ、納得しないの」「あはははっ……すいません、分かっちゃいましたか」「未成年が煙草吸って酒飲んでる。店の人は分かっていても、他の客が気になって仕方がない。だからここで飲む時は、いつも個室に連れてかれる」「だから今日も個室なんですね。空いてる席が多いのに、なんでだろうって思ってました」「まあそれと、今日は色々話せればと思ってるからね。個室の方が都合いいんだ」 その言葉に、海が肩をピクリとさせた。「それって……どういう意味でしょう」「ああ店員さん、とりあえず生ふたつで」 手馴れた様子でそう店員に告げ、青空〈そら〉がメニューを閉じる。「海ちゃんは嫌いなものとかある?」「いえ、特にはないです」「じゃあ店員さん、いつものようにおまかせで。予算1万ぐらいでよろ」「分かりました」 しばらくして、店員が付け出しと生ビールを持ってきた。「それじゃあ海ちゃん、とりあえずお疲れ」「お、お疲れ様です」 そう言ってジョッキを重ね、二人がビールを口にする。「うまい! この一杯の為に生きてるわー」 青空〈そら〉が満足そうに笑顔を見せる。しかし海は落ち着かない様子で、「あはははっ、そうですね」と愛想笑いを浮かべた。
「いらっしゃいませ!」 喫茶とまりぎで。 海が元気よく声を上げた。「あらあら海ちゃん、今日も元気いっぱいね」「あはははっ、ありがとうございます濱田さん」「ほんと、海ちゃんが来てから、ここの雰囲気が明るくなったわ」「そんなそんな。褒めても何も出ないですよー」 照れくさそうに笑う海。 そんな彼女に微笑みながら、浩正〈ひろまさ〉が濱田に声をかける。「いらっしゃいませ濱田さん。スタッフを褒めてもらって嬉しい限りなのですが……前は暗かったですか」「ああ浩正くん。ごめんなさいね、そういう意味じゃないのよ。ここはいつ来ても和やかで楽しくて、私たちにとって憩の場所なんだから。海ちゃんが来てくれて、もっともっと楽しい場所になったってことよ」「はははっ、ありがとうございます」「海ちゃんのおかげで青空〈そら〉ちゃんも楽しそうだし。ほんと、いい人が入ってくれてよかったわ」「そんなー。濱田さん、褒めすぎですってばー」「うふふふっ。ほんとのことだから、照れなくても大丈夫よ」 客と海のやり取りをパントリーで眺めながら、誰に話すともなく大地がつぶやいた。「なんだよこの状況……」 * * * 大地と海が過去を打ち明けあったあの時、海は言った。 あんたを幸せにしてみせると。 その言葉にどんな意味が込められているのか、その時の大地には分からなかった。 全てに絶望し、人を信じることを放棄した自分には、この世界で生きる資格がない。 そして自分にとって最も大切な存在、青空〈そら〉の幸せの最たる障害。それが自身であり、一刻も早く取り除きたいと思っていた。そして事実、行動を起こした。 しかしその時、海と出会ってしまった。 海の死を見届けるまで、俺は死なない。 彼女と交わした約束を、大地は後悔していた。 当の海が、まさかここから復活するとは思ってもなかった。 確かに
海のことも信じていない。 そう言ってから、部屋の空気が重くなったと思った。「……」 大地は頭を掻き、小さく息を吐いた。「俺たちの話はこんなところだ」「うん……」「でもまあ、聞いたからと言って、青空姉〈そらねえ〉に変な気を使わないでやってくれ。そういうの、青空姉〈そらねえ〉はすぐ分かるから」「……分かった」「浩正〈ひろまさ〉さんにもな」「どういうこと? 今の話に浩正さん、全然出てこなかったけど」「浩正さんは、青空姉〈そらねえ〉の婚約者だ」「そうなんだ……」 確かに二人の距離は、雇い雇われの関係よりずっと親密だった。そう思い納得した。「浩正さんは全部知ってる。でも浩正さんにとって、それは大した問題じゃないんだ。 それは全部過去の話。僕が知りたいのは、これから青空〈そら〉さんがどんな人生を歩みたいのか、それだけなんですって」「……」「どれだけ幸せな過去を持っていても。どれだけ立派な人生を歩んでいても。これから堕ちていく人もたくさんいます。僕にとって過去というのは、その程度のものなんですって笑ってた。 どれだけ辛い過去を背負っていたとしても、それでも前を向き、幸せを求めて進もうとしてる青空〈そら〉さんのことが好きなんですって」 その言葉に海が微笑む。 そして思った。 浩正さんって、裕司〈ゆうじ〉とちょっと似てるかも、と。「青空姉〈そらねえ〉もそんな浩正さんのことが好きで、いずれ結婚したいと思ってる。何より浩正さんの夢を応援したい、一緒に叶えたいと思ってる」「いつかあの場所で、介護施設を立ち上げるって夢?」「ああ。今みたいな協力じゃなく、自分が理想とする施設を立ち上げたいって夢だ」「浩正さんなら出来ると思う」「俺もそう思う。まあ、